テナントビルやマンションのオーナーの皆さん、こんな状況に心当たりはありませんか?
「10年前に決めた賃料のまま、ずっと更新し続けている」 「周辺相場が上がっているのに、賃料は据え置きのまま」 「テナントとの関係を考えると、値上げを言い出しにくい」 「そもそも適正な賃料がいくらなのか分からない」
賃貸経営において、賃料は収益の根幹です。しかし、多くのオーナーが「一度決めた賃料」を何年も、時には10年以上も見直さずに放置しているのが現実です。
その結果、気づかないうちに年間数十万円、場合によっては数百万円もの収益機会を逃している可能性があるのです。
今回は、定期的なテナント賃料見直しの重要性と、その適切な進め方について専門的な視点から解説します。
なぜ賃料の見直しが必要なのか?
「長期契約してくれているテナントに感謝しているし、賃料を上げるのは気が引ける…」
そう考えるオーナーの方は少なくありません。しかし、賃料の見直しは、決してテナントに不利益を押し付ける行為ではありません。むしろ、適正な賃料設定は、オーナーとテナント双方にとって健全な賃貸関係を維持するために不可欠なのです。
賃料を放置することで生じる問題
1. 収益機会の損失 周辺相場が上昇しているにもかかわらず、旧来の賃料を据え置くことで、本来得られるはずの収益を失い続けます。10年間で累積すれば、その損失額は膨大です。
2. 資産価値の低下 不動産の資産価値は、収益性(利回り)で評価されます。低い賃料のまま放置すると、物件全体の評価額が下がり、売却や融資の際に不利になります。
3. 新規テナントとの不公平 既存テナントの賃料が相場より大幅に安い場合、新規テナントとの間に不公平感が生じ、賃貸経営上の問題となります。
4. 修繕・改修資金の不足 適正な賃料収入がなければ、建物の適切な維持管理や改修に必要な資金を確保できず、物件の劣化を招きます。
「賃料の見直し=値上げ」ではない
賃料見直しと聞くと、「テナントに値上げを要求する」というネガティブなイメージを持つ方もいるでしょう。しかし、賃料見直しの本質は「市場実勢に合わせた適正化」です。
賃料見直しの三つのパターン
1. 増額改定 周辺相場の上昇、物件の価値向上(設備更新など)、経済情勢の変化により、賃料を増額する場合。
2. 減額改定 周辺相場の下落、建物の老朽化、経済情勢の悪化により、賃料を減額する場合。
3. 据え置き 総合的に判断して、現行賃料が適正と認められる場合。
つまり、賃料見直しは「必ず値上げする」ものではなく、市場環境に応じて柔軟に対応する経営判断なのです。
賃料見直しのタイミングはいつ?
では、いつ賃料を見直すべきなのでしょうか。
見直しを検討すべき主なタイミング
1. 契約更新時(2〜3年ごと) 賃貸借契約の更新時は、賃料見直しの最も自然なタイミングです。契約更新を機に、市場相場を確認しましょう。
2. 大規模修繕・設備更新後 エレベーターの更新、外壁塗装、共用部のリノベーションなど、物件価値が向上した際は、賃料見直しの好機です。
3. 周辺環境の大きな変化 最寄り駅の開発、商業施設の開業、新路線の開通など、立地環境が大きく変化した場合。
4. 経済情勢の変化 インフレや地価の上昇など、不動産市場全体に影響を与える経済変動があった場合。
5. 10年以上賃料を据え置いている場合 最後の見直しから10年以上経過している場合は、早急に現状把握が必要です。
適正賃料を知るための三つの方法
「じゃあ、適正な賃料っていくらなの?」という疑問が湧くでしょう。適正賃料を把握するには、以下の方法があります。
1. 周辺相場の調査
最も基本的な方法です。
- 不動産ポータルサイトで類似物件の募集賃料を確認
- 近隣の不動産会社にヒアリング
- 実際の成約事例を収集
メリット: 手軽に相場感をつかめる デメリット: 物件の個別事情を反映しにくい
2. 不動産会社による査定
地元の不動産管理会社や仲介会社に査定を依頼します。
メリット: 現場感覚に基づく実践的な意見が得られる デメリット: 会社によって意見がバラつく可能性
3. 不動産鑑定士による賃料鑑定評価
国家資格を持つ不動産鑑定士が、鑑定評価基準に基づいて客観的に適正賃料を算定します。
鑑定評価で考慮される要素:
- 対象物件の立地条件、建物スペック
- 周辺の賃貸事例、取引事例
- 対象物件から得られる収益性
- 近隣地域の発展動向
- 経済情勢、金利動向
メリット: 最も客観的で信頼性が高く、交渉や訴訟の根拠となる デメリット: 費用がかかる(通常20万円〜50万円程度)
賃料見直し交渉を成功させるポイント
適正賃料が分かったら、次はテナントとの交渉です。円滑な交渉のためには、以下のポイントを押さえましょう。
1. 十分な準備期間を設ける
契約更新の3〜6ヶ月前には、賃料見直しの意向を伝えましょう。突然の通告は、テナントとの信頼関係を損ねます。
2. 客観的なデータを示す
「周辺相場がこのくらいです」という口頭説明だけでなく、具体的なデータや資料を提示することで、説得力が増します。不動産鑑定士による評価書があれば、より客観性が高まります。
3. 段階的な改定を提案する
相場との乖離が大きい場合、一度に大幅な値上げを要求するのではなく、複数年にわたって段階的に改定する提案も効果的です。
4. テナントの事情にも配慮する
テナントの経営状況や業種特性も考慮し、一方的な要求にならないよう対話を重視しましょう。
5. 付加価値の提供を検討する
賃料改定と同時に、共用部の改善、設備更新、サービス向上など、テナントにとってのメリットも提供できないか検討しましょう。
6. 専門家のサポートを活用する
不動産鑑定士、弁護士、税理士など、専門家のアドバイスを受けることで、適切な交渉戦略を立てられます。
賃料見直しを怠った場合のリスク
「面倒だから」「テナントとの関係が悪化するのが怖いから」と、賃料見直しを先送りし続けると、以下のようなリスクが生じます。
経済的損失の拡大
仮に月額5万円の賃料を10年間据え置いた場合、その間に周辺相場が月額8万円に上昇していたとしたら——
月額3万円 × 12ヶ月 × 10年 = 360万円の機会損失
複数の区画があれば、損失はさらに膨らみます。
将来の交渉がより困難に
長年放置した後に大幅な値上げを要求することは、テナントの反発を招きやすく、交渉が決裂するリスクも高まります。定期的な小幅改定の方が、双方にとって受け入れやすいのです。
相続税評価への影響
相続が発生した際、賃料が著しく低い場合、税務上の問題が生じる可能性があります。適正賃料との差額が贈与とみなされるリスクもあるのです。
賃料見直しは「攻め」の賃貸経営
定期的な賃料見直しは、決して「テナントから搾取する」行為ではありません。それは、市場環境の変化に適応し、物件価値を維持・向上させるための「攻めの賃貸経営」なのです。
適正な賃料収入があってこそ、建物の適切な維持管理が可能になり、テナントにとっても快適な環境を提供し続けられます。長期的な視点で見れば、適正賃料の維持は、オーナーとテナント双方にとってメリットがあるWin-Winの関係を築くことにつながるのです。
まとめ:今こそ賃料の「健康診断」を
賃貸物件の賃料は、定期的に見直すことで、収益性を最大化し、資産価値を維持できます。
「最後に賃料を見直したのはいつだったか思い出せない」 「周辺相場がどうなっているか把握していない」 「適正な賃料がいくらなのか分からない」
そんな方は、今すぐ賃料の「健康診断」を受けることをお勧めします。
賃料見直しでお悩みのオーナー様へ 定期的なテナント賃料の見直しや適正賃料の算定について、もっと詳しく知りたい方は、不動産鑑定士、賃貸管理会社、不動産コンサルタントなどの専門家にご相談ください。あなたの賃貸経営を成功に導くパートナーとして、適切なアドバイスとサポートを提供いたします。